バッティングの軸ブレを見直す|「真っすぐ立つ」から始める身体のお手入れ
2026/09/06
バッティングの回転軸がブレていませんか?
まずは「真っすぐ立つ感覚」から始める身体のお手入れ
「スイングすると身体が流れてしまう」
「同じように振っているつもりなのに、日によって感覚が違う」
「足元は安定しているはずなのに、身体をうまく回せない」
野球をしている方から、こうした相談を受けることがあります。
もちろん、バッティングにはフォーム、タイミング、視覚情報、体重移動、股関節や骨盤、体幹、上半身の協調など、さまざまな要素が関係します。
だからこそ私は、いきなりスイングだけを見るのではなく、まず「立っているときの身体」から確認することがあります。
なぜなら、動く前の身体の状態を知ることが、その人の身体の使い方を考える一つの手がかりになるからです。
バッティングの「軸」は、スイングの瞬間だけにつくられるものではありません
バッティングでは、足元と地面との関係を感じながら、下半身、骨盤、体幹、上半身を協調させ、投球に対してタイミングを合わせながらバットを動かしていきます。
その間には、体重移動、回旋、姿勢の調整、視覚情報への対応、タイミング調整など、複数の要素が関わります。
そのため、「正しい姿勢で立てれば、それだけでバッティングの回転軸が完成する」という単純な話ではありません。
ここは、最初に明確にしておきたいところです。私が「立つこと」に注目するのは、バッティングの技術を立位姿勢だけで説明したいからではありません。
まずは、自分の身体をどのように支えているのかを感じるところから始めたいと考えているからです。
「真っすぐ立つ」と「身体を固める」は違います
「姿勢を良くしましょう」と言われると、
・胸を張る
・背筋を伸ばす
・お腹に力を入れる
・肩を後ろに引く
・膝を伸ばす
といったことを思い浮かべるかもしれません。
しかし、スポーツで必要なのは、きれいな形をそのまま固定することではありません。必要なときには力を出し、必要のないところでは余計な力を使わない。そして、動いたあとに、再び身体を支えやすい状態へ戻ってこられる。私は、このような状態を「ニュートラル」という言葉で捉えています。
きれいに立つことが目的なのではありません。身体を固めることでもありません。動くための準備ができている状態を、自分の身体で感じられること。そこを大切にしています。
「身体の中心」は、バッティングの回転軸そのものではありません
ここでいう「身体の中心」は、バッティング技術における回転軸そのものを意味するものではありません。
バッティングの回転軸は、実際の動作の中で、股関節、骨盤、体幹、上半身、体重移動、タイミングなどが協調する中で成立します。
一方で、立っているときに、
「左右どちらかに寄りすぎていない」
「足元から身体を支えやすい」
「余計な力を入れなくても立っていられる」
「動き出す準備がしやすい」
と感じられる場所があります。ここでは、それを「自分の身体の中心を感じやすい状態」として考えます。この感覚が、動作を考えるときの一つの土台になります。
私たちは「ひとつの感覚」だけで立っているわけではありません
立っているとき、身体はさまざまな感覚情報を利用しています。
たとえば、
・体性感覚・固有感覚:足裏、関節、筋肉などから、身体の位置や動きを感じ取る情報。
・前庭感覚:頭部の動きや傾きなどに関係する感覚。
・視覚:周囲の位置関係や身体の向きを把握するための情報。
これらは、それぞれ独立して働いているわけではありません。
姿勢制御では、視覚・前庭感覚・体性感覚などの情報を組み合わせながら、そのときの環境や動作に応じて身体を調整しています。
そのため、身体の状態を考えるときも、「筋肉だけ」「骨だけ」と部分だけを見るのではなく、身体がどのように情報を受け取り、どのように調整しているのかという視点を持つことができます。
身体は、部分だけではなく「つながり」で見る
例えば、立っているときの足元の状態が変われば、膝や股関節の使い方も変わることがあります。骨盤の位置や体幹の状態によって、上半身の動かしやすさが変わることもあります。肩や首に余計な力が入り続けていることで、身体を回す感覚が変わることもあります。もちろん、「足がこうだから必ず膝がこうなる」という単純な話ではありません。身体は、さまざまな部分が互いに影響しながら動いているからです。
私は身体を見るとき、この「全体のつながり」を考える一つのモデルとして、テンセグリティという考え方を参考にすることがあります。
ただし、これは人体そのものが、そのままテンセグリティ構造であると断定するものではありません。「ここだけが悪い」と部分的に切り分けるのではなく、全体の関係性を考えるためのモデルとして捉えています。
「力を抜く」のではなく、必要な力を調整できる身体へ
身体のコンディショニングで「力を抜きましょう」と言われることがあります。
しかし、スポーツでは力を抜けばいいわけではありません。力を出すべき瞬間には、しっかり力を出す必要があります。
大切なのは、必要以上に力が入り続けている状態から、状況に応じて力加減を調整できる状態へ近づけること。私はこれを、便宜上「神経系の緊張をオフにする」という言葉で説明することがあります。
もちろん、神経系を止めるという意味ではありません。むしろ、必要なときに働き、必要のないときには余計な力を使い続けないよう調整できることを意味しています。
バランスラボで使用している「マークスボード」
ここまで読んで、「では、実際に自分の身体がどうなっているのか、どうやって確認するの?」と思われるかもしれません。
バランスラボでは、その確認に使うツールの一つとしてマークスボードを使用しています。私自身、マークスボードの背景にある考え方を学ぶ中で、開発に携わった江口典秀氏とともに学ぶ機会がありました。
また、マークスボードが形になっていくまでの経緯についても、江口氏から直接話を伺ってきました。
そのため、私にとってマークスボードは、単に「不安定な板に乗る道具」ではありません。身体が不安定な環境に置かれたとき、どのように姿勢を調整するのかを観察するための一つのツールとして捉えています。
マークスボードの背景にあるTNCという考え方
マークスボードの背景には、江口典秀氏が創始した「トータルニューロコンディショニング(TNC)」という取り組みがあります。
TNC公式情報では、TNCは2015年にスタートし、神経科学の研究者である順天堂大学名誉教授・米田継武氏、機能神経学の臨床家である伊藤彰洋氏とともに、神経科学と機能神経学を土台として開発された実践的なプログラムとされています。TNC研究所(RITNC)では、これらの分野について学術・臨床研究を行い、教育実践プログラムやツールの開発に取り組んでいると説明されています。
江口氏はTNC公式プロフィール上でも創始者・エクササイズディレクターとして紹介され、マークスボディデザイン代表、JOC強化スタッフ(2003~2021)などの経歴が掲載されています。西村雄一氏もTNCコミュニティーオフィサーとして掲載されています。
私自身は、こうした公式情報だけでなく、江口氏と実際に学んできた経験や、マークスボードの開発に至った背景について直接伺った経験も含めて、このツールを理解しています。
ただし、ここで大切なのは、TNCの背景があるから、マークスボードに乗ればバッティングが上達するという話ではないということです。そこは明確に分けて考えています。
私がマークスボードを使う理由
私がこのボードを使う理由は、「乗れば身体が良くなる」と考えているからではありません。
不安定な環境の中で、
・足元をどう使っているのか
・身体がどちらへ揺れやすいのか
・揺れたあと、どのように戻ろうとするのか
・肩や首に余計な力が入っていないか
・呼吸がどう変化するのか
・左右で反応に違いがないか
といったことを、一緒に確認するためです。
「うまく乗る」こと自体が目的ではありません。自分の身体が、どのようにバランスを取ろうとしているのかを感じること。そこに意味があると考えています。
バランスが良くなれば、必ずバッティングが良くなるのか?
ここも、誤解してほしくないところです。バランスや固有感覚に関するトレーニングによって、姿勢制御やバランス能力の指標が改善することは、複数の研究で報告されています。
一方で、「バランスが良くなれば、必ずバッティングが上達する」とまでは言えません。バッティングには、身体能力だけでなく、視覚・知覚・判断、タイミング、技術、経験など、さまざまな要素が関係するからです。
そのため、野球の技術そのものは、野球を専門とする指導者から学ぶものだと私は考えています。
私たちができるのは、その技術を練習する前段階として、「自分の身体を使いやすい状態に整える」という部分を一緒に確認することです。
まずは「真っすぐ立つ」を感じてみてください
難しいことをする必要はありません。安全な場所で、普段どおりに立ってみてください。そして、少しだけ自分の身体に意識を向けてみます。
足裏:どこに体重を感じていますか?左右で違いはありませんか?
足指:無意識に足指を握っていませんか?
膝・股関節:立つために必要以上に力が入っていませんか?
肩・首:肩をすくめたり、首を固めたりしていませんか?
呼吸:自然に呼吸できますか?
そして最後に、そのまま一歩、歩き出してみてください。
立っているときの感覚が、歩き出した瞬間にどう変わるでしょうか。
「右の足に乗りやすい」「左肩に力が入っていた」「足指を握っていた」「思ったより呼吸が浅かった」
そんな小さな気づきでも構いません。それが、自分の身体を知るための一つの手がかりになります。
※痛み、めまい、強い不安定感などがある場合は無理に行わず、安全を確保したうえで確認してください。
バッティングの「軸」を考えるとき、まず身体の土台から
バッティングの回転軸は、立っているだけで完成するものではありません。
実際のスイングでは、身体のさまざまな部分が協調し、視覚情報やタイミング、技術と組み合わさって一つの動作になります。だからこそ私は、「軸を作ろう」といきなりスイングを変えるのではなく、まず自分がどう立ち、どう身体を支え、どう動き出しているのかを確認することを大切にしています。
きれいに立つことが目的ではありません。身体を固めることでもありません。必要なときには力を出し、必要のないところでは余計な力を使わず、動いたあとに自分の中心へ戻ってこられる。
そんな身体の使い方を、一緒に探していきます。一人では、自分の立ち方や身体の力みを判断するのが難しいこともあります。
バランスラボでは、プライベートな空間で立位や動作時の身体の反応を確認しながら、お一人おひとりの状態に合わせて、身体のお手入れをご提案しています。
「スイングすると身体が流れる」「日によって身体の感覚が違う」「自分ではどこに力が入っているのか分からない」
そんなときは、フォームを変える前に、一度「立っている自分の身体」から見直してみてください。
バッティングの軸を考えることは、自分の身体の中心を感じることから始められるかもしれません。
よくあるご質問(Q&A)
Q1. 野球教室やバッティングスクールとは何が違うのですか?
A. 当院はフォームの打ち方指導やスイングの技術的アドバイスを行う野球教室ではありません。打撃技術の習得は専門の指導者や監督・コーチから学ぶものと考えております。当院ではその前段階として、「自分の身体の位置を正しく感じられているか」「無駄な力みがないか」といった、技術練習を効果的に行うための身体の感覚やコンディショニングの土台づくりをサポートいたします。
Q2. 小学生やジュニア選手でも受けられますか?
A. はい、世代を問わず受けていただけます。ジュニア期(小・中学生)から、自分の身体の位置や動き、力み、バランスの変化に目を向けることは、身体の使い方を学ぶうえで大切な土台の一つです。当院では、視覚・前庭感覚・体性感覚など、姿勢や動きに関わる感覚にも着目しながら、お一人おひとりの状態に合わせて確認していきます。保護者の方にも状態や目的を丁寧にご説明しながら進めますので、ご安心ください。
Q3. マークスボードに乗れば、すぐに打球速度が上がったりヒットが打てるようになりますか?
A. マークスボードに乗ること自体で直接的に打球速度や打率が向上するわけではありません。バッティングには技術、筋力、タイミング、球種の予測など多様な要素が関わります。マークスボードはあくまで「自分の身体のバランス反応や力みの癖に気づくための観察ツール」として使用しています。
Q4. Q4. 運動が苦手でバランス感覚に自信がないのですが大丈夫ですか?
A. まったく問題ありません。「上手にボードに乗る競技」ではありませんので、最初からうまく立てる必要はありません。当院では、支柱の大きさなどを調整し、お一人おひとりの状態に合わせて無理のない範囲で行います。上手に乗れるかどうかだけではなく、バランスを崩したときに身体がどのように反応するのかも、大切な観察材料の一つと考えています。
Q5. 身体の中心を整えれば、バッティングの回転軸も整いますか?
A. 「身体の中心」と「バッティングの回転軸」は、同じものではありません。バッティングの回転軸は、下肢・骨盤・体幹・上肢の連動やタイミング、視覚情報など、さまざまな要素によってつくられます。
当院では、回転軸そのものを技術的に指導するのではなく、その動作を行う前提となる「立つ・支える・動く」ときの身体の状態に着目しています。まず自分の身体の中心を感じやすく、必要なときにそこへ戻りやすい状態を確認することが、動作を見直す一つのきっかけになると考えています。
ご利用・ご閲覧にあたっての注意事項
効果の個人差について 当コラムでご紹介している「身体の感覚の変化」や「立ったときの実感」には個人差があります。すべての方に同様の変化や効果を保証するものではありません。
技術指導に関する位置づけ 当院のコンディショニングおよびマークスボード等のツールを使用したアプローチは、競技における特定のパフォーマンス向上や技術習得を直接的に約束するものではありません。スポーツ技術の指導につきましては、専門の指導者・コーチの指示に従ってください。
医療行為について 当院で行うお体のケアやコンディショニングは、特定の病気や怪我の診断・治療を目的とした医療行為ではありません。現在、整形外科等で治療中の方、または強い痛みやしびれ、著しいめまい等の症状がある方は、あらかじめ医師にご相談の上ご来院ください。
安全管理について マークスボード等のツール使用にあたっては、お体の状態に合わせて安全を確保した環境で行います。体調に不安がある場合は無理に行わず、すぐにスタッフにお申し出ください。
参考文献・関連文献
本コラムでは、姿勢制御、体性感覚・前庭感覚・視覚の統合、固有感覚トレーニング、バッティング能力に関する研究を参考にしています。
1.Peterka RJ.
Sensorimotor integration in human postural control.
Journal of Neurophysiology. 2002;88(3):1097-1118.
doi:10.1152/jn.2002.88.3.1097
→ 立位姿勢の制御には、視覚・前庭感覚・固有感覚など複数の感覚情報が関与し、状況に応じてそれらを調整していることを示した研究です。
2.Bronstein AM.
Multisensory integration in balance control.
Handbook of Clinical Neurology. 2016;137:57-66.
doi:10.1016/B978-0-444-63437-5.00004-2
→ 直立姿勢の維持において、視覚・体性感覚(固有感覚を含む)・前庭感覚が相互に作用することをまとめた総説です。
3.Yılmaz O, Soylu Y, Erkmen N, Kaplan T, Batalik L.
Effects of proprioceptive training on sports performance: a systematic review.
BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation. 2024;16:149.
doi:10.1186/s13102-024-00936-z
→ 固有感覚トレーニングに関する研究をまとめたシステマティックレビュー。バランス、協調性、運動学習などへの影響が報告されています。ただし、特定の器具やバッティングへの効果を直接証明する研究ではありません。
4.Tremblay M, Couëpel B, Abboud J, et al.
What are the Individual Characteristics or Skills Associated with Baseball Batting Performance? A Scoping Review.
Sports Medicine - Open. 2025;11:150.
doi:10.1186/s40798-025-00947-1
→ バッティング能力に関連する身体的・視覚的・知覚的・視覚運動的な要素を整理したスコーピングレビュー。バッティングは単一の要素だけで決まるものではないことを考えるうえで参考となる文献です。
5.Peterka RJ, Loughlin PJ.
Dynamic regulation of sensorimotor integration in human postural control.
Journal of Neurophysiology. 2004;91(1):410-423.
doi:10.1152/jn.00516.2003
→ 姿勢制御において、環境や状況に応じて感覚情報の利用方法が変化することを扱った研究です。身体の状態を「固定された姿勢」ではなく、感覚情報を利用しながら調整されるシステムとして捉える際の参考になります。

