動いているときに身体がブレるのはなぜ?|動的バランスと姿勢制御
2026/09/24
歩いているときに身体が左右に揺れる、片足で踏ん張ると姿勢が崩れる、スポーツで方向転換すると身体が流れてしまう。
こうした動作中の「ブレ」は、筋力不足だけで説明できるとは限りません。身体の重心の移動、足元の状態、視覚や身体の感覚から得られる情報、動作を調整するタイミングなど、複数の要素が関係します。
動的バランスとは、身体を動かしながら姿勢と安定性を調整する働きです。
この記事では、動的バランスと姿勢制御の仕組み、感覚情報と足元の条件が身体の動きに関わる理由、BALANCE LABで行っている身体の観察について解説します。
1. 動的バランスとは?重心と足元の関係
バランスというと、片足立ちで身体を動かさずに立つことをイメージするかもしれません。
しかし、歩く、走る、しゃがむ、方向転換するといった動作では、身体の重心が絶えず移動しています。そのため、動作中のバランスでは、静止する能力だけでなく、重心の移動に合わせて姿勢を調整する働きも重要です。
重心の位置だけでは、動作中の安定性を説明しきれない
身体の安定性を考える際には、重心(Center of Mass:CoM)と、身体を支える範囲である支持基底面(Base of Support:BoS)との関係が一つの手がかりになります。
静止に近い状態では、重心の位置を確認することが役立ちます。一方、歩行などの動作中には、重心の位置だけでなく、身体がどの方向へ、どの程度の速さで動いているかも重要になります。
Hofら(2005)は、単純化した倒立振り子モデルをもとに、重心の位置と速度を考慮する「外挿重心(Extrapolated Center of Mass:XCoM)」という概念を示しました。このモデルでは、XCoMと支持基底面の関係から、動的な安定性を考えることができます。
ただし、これは身体の動きを理解するための理論的な枠組みです。実際の動作にはさまざまな要素が関わるため、XCoMだけで、あらゆる動作の安定性やバランス能力を判断できるわけではありません。
2. 姿勢制御には、複数の感覚情報が関わる
身体の姿勢を調整するときには、視覚、前庭感覚、体性感覚など、複数の感覚情報が利用されます。
視覚: 周囲の景色や物体との位置関係を把握するための情報
前庭感覚: 頭部の動きや重力に対する向きなどに関わる情報
体性感覚: 筋肉、関節、皮膚などから得られる身体の位置や動きに関する情報
これらの情報は、身体の状態を把握し、姿勢や動きを調整するうえで役立ちます。
感覚情報の利用方法は、環境によって変わる
例えば、目を開けて安定した床に立つ場合と、目を閉じて柔らかい足場に立つ場合では、利用できる感覚情報の条件が異なります。
AssländerとPeterka(2014)は、健康な若年成人の立位姿勢制御を調べ、視覚や固有感覚に関わる刺激条件が変化すると、感覚情報の寄与も変化することを示しました。このように、状況に応じて感覚情報の利用割合を調整する働きは「感覚再重みづけ(Sensory Reweighting)」と呼ばれます。
また、Ekvall Hanssonら(2010)やAdamoら(2013)は、視覚の有無、立つ面の状態、頭部の位置などの条件と、立位時の姿勢動揺との関係を検討しています。
ただし、影響の現れ方は条件や測定する指標によって異なります。これらの研究は主に立位姿勢を扱っているため、結果をそのまま歩行やスポーツ動作のすべてに当てはめることはできません。
3. 動作の速さや足元の条件で、身体のブレ方は変わる
同じ人でも、ゆっくり動くときと素早く動くときでは、身体の安定性が異なる場合があります。
例えば、ゆっくりしゃがむ動作は安定していても、素早く方向転換すると姿勢が崩れることがあります。また、平らで安定した床では問題なく動けても、足元の条件が変わると動きにくさを感じることもあります。
こうした違いには、重心の移動、動作の速さ、支持基底面、感覚情報の利用、身体の動きを調整するタイミングなど、複数の要素が関係します。
そのため、一つの動作ができるかどうかだけで、日常生活やスポーツで必要となるバランス能力のすべてを判断することはできません。
身体の動きを調整する仕組みは、バランスだけでなく、筋力があるのに思いどおりに動けない場面を考えるうえでも重要です。
関連する運動コントロールの仕組みについては、「筋力があるのに動けないのはなぜ?」もご覧ください。
片足立ちだけでは分からないこともある
片足立ちは、身体を支える範囲が狭くなる条件で姿勢を保つ動作です。身体の安定性を観察する一つの方法になります。
一方、片足立ちで安定していても、歩行中の方向転換や、動きながら合図に反応する場面で同じように安定するとは限りません。
Leschら(2024)のシステマティックレビューでは、19~54歳の成人を対象に、動的・機能的バランス評価の妥当性と信頼性が検討されています。評価方法によって測定特性が異なるため、何を確認したいのかに応じて適切な方法を選ぶことが重要です。
片足立ちは静的な姿勢の安定性を観察する方法の一つですが、動きながら姿勢を調整する能力のすべてを評価できるわけではありません。
こうした片足立ちの特徴や、足元と重心の関係については、「片足で立つとフラつくのはなぜ?」でも詳しく解説しています。
4. BALANCE LABでは、身体の状態と動作を複数の視点から確認する
BALANCE LABでは、身体のブレや動きにくさについて相談を受けた際、特定の動作だけで判断するのではなく、相談内容や身体の状態に応じて、複数の視点から確認します。
姿勢・重心・関節の動きを観察する
立位、歩行、片足立ち、スクワット、ランジなどを通して、姿勢や重心の移動、関節の動き、身体の使い方などを観察します。
必要に応じて、足元の支持条件を変えたときや、動作の方向・速さが変わったときに、身体の反応がどのように変化するかも確認します。
感覚情報や姿勢反応に関わる課題を用いる
相談内容や安全性に応じて、視覚の有無、頭部の動き、足元の条件などを変えた課題を用いる場合があります。
また、必要に応じて、眼球運動の観察や、光の合図に反応して踏み出す課題などを組み合わせます。これらは、課題の条件によって身体の反応がどう変わるかを確認するためのものです。
ただし、特定の課題で身体が揺れたことだけから、前庭系や神経系に異常があると判断することはできません。姿勢や動作の観察は、他の情報と合わせて解釈する必要があります。
筋肉や関節の状態も合わせて確認する
身体のブレには、感覚情報だけでなく、筋力、関節の動き、痛み、筋肉の緊張などが関係する場合もあります。
そのため、必要に応じて、身体の局所的な状態と全身の動きを合わせて確認します。すべての方に同じ評価を行うのではなく、お悩みや身体の状態に応じて確認する内容を選びます。
光に反応して踏み出す課題について
例えば、BlazePodのような光刺激デバイスを用いた課題では、合図に反応して踏み出す動作や、そのときの身体の動きを観察できます。
IlinとKalron(2025)は、高齢者50人を対象に、BlazePodを用いたステップ反応テストの再テスト再現性と、他の身体機能評価との関連を検討しました。研究では、いくつかのバランス・移動能力に関する指標との関連が認められた一方、反応的な姿勢制御との関連は認められず、転倒経験の有無を区別することもできませんでした。
この研究は、特定の条件下でのテストの特性を検討したものであり、BlazePodだけで転倒リスクやスポーツ能力全般を判定できることを示したものではありません。
BALANCE LABでも、課題の結果だけで身体の状態を決めつけず、相談内容や他の観察結果と合わせて考えることを大切にしています。
5. 身体のブレが気になるときに大切なこと
動作中のブレには、重心の移動、足元の状態、感覚情報、動作の速さ、筋力や関節の動きなど、複数の要素が関係する可能性があります。
そのため、「筋力が足りない」「バランス感覚が悪い」と一つの原因に決めつけず、どのような場面で、どのような動作をしたときにブレが生じるのかを整理することが大切です。
例えば、日常生活での歩行、階段の昇り降り、スポーツでの方向転換では、それぞれ必要となる動きや確認する視点が異なります。
BALANCE LABでは、お悩みや身体の状態を確認しながら、必要な評価や身体のケア、運動などを検討します。
なお、ブレやふらつきが急に生じた場合、歩行が難しくなった場合、強いめまいや新たな脱力などを伴う場合には、整体や運動による対応を優先せず、速やかに医療機関へ相談してください。
よくある質問
Q. 片足立ちができれば、動的バランスも良いのでしょうか?
A.必ずしもそうとは限りません。片足立ちは身体の安定性を観察する一つの方法ですが、歩行や方向転換など、動きながら姿勢を調整する能力をすべて評価できるわけではありません。
Q. 身体がブレるのは、筋力不足が原因ですか?
A.筋力が関係する場合もありますが、それだけで説明できるとは限りません。重心の移動、足元の状態、感覚情報、動作の速さ、関節の動きなども関係する可能性があるため、状況に応じて確認することが大切です。
Q. BALANCE LABでは、どのようなことを確認しますか?
A.お悩みや身体の状態に応じて、立位や歩行、片足立ち、スクワットなどの動作、関節や筋肉の状態、必要に応じて感覚情報に関わる課題などを組み合わせて確認します。すべての方に同じ検査や課題を行うわけではありません。
ご注意
閉眼での立位や不安定な支持面でのバランス課題、外乱を伴う評価などは、転倒につながる可能性があります。記事で紹介している評価を、自己判断で無理に再現することはおすすめしません。
また、強いめまい、突然のふらつき、繰り返す転倒、急な麻痺・しびれ・言葉の障害などがある場合は、セルフケアや運動よりも医療機関への相談を優先してください。
まとめ
動的バランスは、身体を動かしながら姿勢や安定性を調整する働きです。
その働きには、重心と足元の関係、動作の速さ、視覚・前庭感覚・体性感覚から得られる情報など、複数の要素が関わります。
身体のブレが気になるときは、一つの動作や一つの原因だけで判断せず、実際に困っている動作と身体の状態を複数の視点から確認することが大切です。
BALANCE LABでは、身体の構造と動きの両面から状態を確認し、一人ひとりのお悩みに応じたケアや運動を検討しています。
参考文献
1.Hof AL, Gazendam MGJ, Sinke WE. The condition for dynamic stability. Journal of Biomechanics. 2005;38(1):1-8. doi:10.1016/j.jbiomech.2004.03.025.
2.Assländer L, Peterka RJ. Sensory reweighting dynamics in human postural control. Journal of Neurophysiology. 2014;111(9):1852-1864. doi:10.1152/jn.00669.2013.
3.Lesch KJ, Tuomisto S, Tikkanen HO, Venojärvi M. Validity and Reliability of Dynamic and Functional Balance Tests in People Aged 19-54: A Systematic Review. International Journal of Sports Physical Therapy. 2024;19(4):381-393. doi:10.26603/001c.94612.
4.Ekvall Hansson E, Beckman A, Håkansson A. Effect of vision, proprioception, and the position of the vestibular organ on postural sway. Acta Oto-Laryngologica. 2010;130(12):1358-1363. doi:10.3109/00016489.2010.498024.
5.Adamo DE, Pociask FD, Goldberg A. The contribution of head position, standing surface and vision to postural control in young adults. Journal of Vestibular Research. 2013;23(1):33-40. doi:10.3233/VES-130473.
6.Ilin D, Kalron A. Reproducibility and convergent validity of the blazepod stepping reaction test in older people. Gait & Posture. 2025;119:1-6. doi:10.1016/j.gaitpost.2025.02.015.

